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200101
Monday
『また予告』
新暦、xxxx年、冬。
大陸の南東側に位置する小さな島国<日本国>は、大国<ミッドチルダ>による
侵略を受けていた。侵略軍は本国北側の領土を圧倒的なまでの兵力で制圧しつつ
あった。敗走の日本国軍は陸軍大将率いる主国軍を転進させるべく、最前線の
大隊にその支援を命じる。
流れで転進支援部隊の指揮官に任命されたのは――八神はやて陸軍一尉。
残兵僅かな戦況で、追い詰められながらも、確実に、着実に、時間を稼いでいく。
彼らは時に、非人道的な手を使った。村を焼き払う。井戸に毒を投げ込む。一軍が
通る道の後ろには、荒れ果てた景色ばかりが広がる。
侵略軍を疲弊させる為の術に、若い陸士は反発した。
「こ、子供を手にかけるなんて……」
「過ぎたことを悔やむのは余り感心せぇへんな」
「八神隊長……これが、こんなことが、許されるんでしょうか!?」
「勘違いしてはいけない、中島陸曹。これは戦争で、それを命令したのは、私や」
対して、侵略軍の総司令官であるフェイト・テスタロッサ・ハラオウン元帥は、あまり
芳しくない進攻状況に頭を悩ませていた。補給経路をことごとく潰されてしまって、
兵站も満足に整えられない。
転進支援部隊の十数倍近い兵力を保ちながらも、後手に回る自軍の戦況を、彼女は
冷静に見極めている。
「向こうの指揮官は余程優秀か……臆病なのかな」
逼迫した状況下、二人の指揮官が目をつけたのは領土の中心都市<海鳴市>。
二つの軍が目指す<海鳴市>には、だが、自分らの街を双方から守らんと義勇軍が
決起していた。義勇軍は街に篭城して、侵略軍を牽制し支援部隊を追い払った。
「国民同士で、どうして諍いになるんかな」
「この街は戦争に屈しない!」
「ここを押さえれば、一気に形成は逆転できる」
『相手より先に、この<海鳴市>を制圧する』
三つの勢力は一つの街でぶつかる。だが兵力の差によって、徐々に侵略軍が
押し込んでくる。友軍が逃げ切る刻限まで持つだろうか。
隊長である八神はやては、一つの作戦を打ち立てる。
「日本国陸軍第十三大隊指揮官、八神はやて一等陸尉であります。戦闘意思は
ありません。義勇軍ら諸君――あなた方のリーダーにお会いしたい」
単身で<海鳴市>に乗り込み、義勇軍との和解を試みる。だが、まさかそこで、
敵国の指揮官と遭遇するなどとは思いもよらない。
小さな部屋の中で、三大勢力の隊長らが一同に会す。
「何故、こんな――」
「義勇軍リーダー、高町なのはです。何も無くて申し訳ないけど、楽にしてください」
大国の姫君として一軍を率い、礼儀と敬意を以って剣を振るう正義の侵略者。
フェイト・テスタロッサ・ハラオウン。
「野戦任官でようやくの大尉が、一国の元帥を愚弄するのですね」
街を愛し、人を愛すが故に立ち上がり、戦いの中に身を投じる強く優しい一市民。
高町なのは。
「私たちは、誰にも傅きません」
戦災孤児として有力豪族に拾われ、誇りで死ぬ事を良しとしない臆病な指揮官。
八神はやて。
「でなければ、今頃は凍った骸でした。そればかりは実際的に選択したくありません」
それぞれ境遇の違う三人の指揮官が、戦争の中で一時を共有する。
タイムリミットは次の未明。それまでに、一体、何を語らうのか。
「失礼を承知で申し上げるならば……私はあなた方がひどく羨ましい」
この国に 彼らの
なにが
だれが
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クロスオーバーというよりほぼパクリですすみません。
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『夜の底』
その日、八神邸はいつもと少々趣が異なっていた。
守護騎士として主を守るヴィータは、その気配を敏感に嗅ぎ取った。
一般家庭の雰囲気が何を以って定まるのかは関知するところではないが、この
家に於いては、主に一家の長たる存在に依るところが大きい。原因究明を早々に
終え、ヴィータは困ったように眉尻を下げる。
家中にたゆたう、真綿で包むような空気の温かさは変わっていない。その質感は
透明且つ柔和で、決して恐れるようなものではないし、不快なものでもない。むしろ、
いつにも増して大気は穏やかだ。
そんな、いつもと同じ自宅の匂い――なのに、何故か落ち着かない。
ざらりとした得体の知れぬ触感が肌を舐る。新品の洋服に袖を通した時のように、
おいそれとは馴染めない感覚。簡単に言えば、相容れない。限られた空間内に
満ち満ちたこの空気と、ヴィータは溶け合う事が出来なかった。どれだけ呼吸を
繰り返しても、この場を包む雰囲気には少しの淀みも生まれない。
この家を満たす空気は、とにかく静かで優しい。それが理解できるから、ヴィータは
そろそろと歩く。板の間の裏側に潜む何かを蹴飛ばさないように、ゆっくりと廊下を
進んだ。
うっかりしていると足元を掬われそうで、浚われそうで、怖かった。そうなったら、
きっと、元には戻れない。そんな気がした。
ヴィータはリビングに通ずるドアに手をかける。開けようか開けまいか、少しの間
逡巡した。
そこへ、シグナムが音もなく階段を降りて声をかける。
「ヴィータ」
「……おう。出掛けんのか」
彼女は制服を着用していたので、一見すればすぐわかった。
シグナムは首肯し、
「ザフィーラも合流する」
「そっか。シャマルは?」
「さぁな。大方、どこかで立ち話でもしてるんだろう」
いつもと変わらない会話が、ふわふわ浮いて頼りない。二人とも、不思議と声を
潜めていた。
居心地悪そうに、シグナムは玄関口で靴を履く。それから、扉に手をかけたままの
ヴィータを見やって、溺れる魚のように吐き出した。
「……きっと、我々では、及ばないのかもしれん」
奥歯に何か詰まったようにシグナムは語る。彼女の珍しい物言いに、ヴィータは
頷いて返した。
「だけど」
言いかけて、途切れる。だけど、何だろう。何か言いたいけど、とても形にならない。
輪郭も曖昧な単なる衝動が背中を蹴り上げてくる。ヴィータは歯痒さを噛み潰した。
シグナムも、同じ思いだったのだろう。いや、と彼女は前置きし、
「我らと、我が主の為に前言を撤回する――我々には、何も出来ん」
諦観と落胆が斑に混ざった苦い顔で、シグナムは玄関から出て行った。彼女は
その場から周囲の音ごと引き上げてしまって、妙な静けさが置いてけぼりになる。
ヴィータは、口中に残る違和感を飲み下した。会話の後味は最悪だ。
シグナムはああ言った。彼女は間違っていない。その証拠が、この優しい空間だ。
泣きたくなるほど静かな家だ。
(そうかもしれない、けど)
だけど、ヴィータは彼女より直情的だったので、躊躇いを振り切り扉を押し開けた。
より濃密な、凪いだ海原の如き世界が、そこには広がっていた。廊下と地続きの
空気が、寄せては返す波の優しさでヴィータを奥へと押し流す。何もなくて、静穏な
雰囲気だ。リビングは冷徹さを感じる程に透明で、微温湯のように滑らかな空気に
満ちていた。
その中に、はやてがいた。温かな日差しに包まれながら、窓際で読書をしている。
恐らくダイニングチェアだろう。窓際まで引っ張ってきた一脚に腰掛け、高角度から
差し込む光に背をもたれながら、膝元に置いた本を両手で緩く支えていた。
その姿に、ヴィータは息を呑んだ。まるで一枚絵のように見える。陽光で柔らかく
色付いた空気に抱かれて、呼吸の音すら憚られた。
はやてはヴィータに気付いているだろう。だが、顔を上げない。
つんとしたものが、ヴィータの鼻の奥を競りあがる。力任せに抑えて、口を開いた。
「はやて」
予想以上に、声はか細くなってしまった。ヴィータの呼び声は空気に溶けない。
ゆっくりとはやては顔を上げた。穏やかな目元。いつも以上に。
視線で問いかけられたので、ヴィータは恐る恐る話しかける。
「あの、さ」
「ん?」
「……そっち、行っていい?」
断られたらどうしよう、と思いながらも、言わずにいられなかった。
はやては口元の笑みを深くしただけだった。拒絶とも許諾とも受け取りにくいが、
ヴィータは許されたのだと解釈する。ほっとしつつ、そっと一歩を踏み出した。煌く
空気が鼻先を撫でる。身体を上滑りする質感が、砂漠の砂や羽毛を思わせた。
はやての周囲を荒らさないように、ヴィータは椅子の隣に座り込む。頭の高さが、
丁度はやての腰辺りだった。遠慮がちにもたれみても、はやては何も言わない。
はやてはハードカバーを読んでいる。縁の擦れた、古めかしい本だった。大切な
思い出を一つ一つ語るように、はやてはゆっくりとページをめくっている。ヴィータは
その音にだけ耳を澄ませた。
(桜の、花びら)
ぽつぽつと考える。
(夜。夜だ。夜の――夜の星)
浮かんでは消えるイメージを眺め、ヴィータは目を閉じる。
家の中は静かで、空気は柔らかくて、はやてがいて。
何で、こんなに泣きたくなるんだろう。
何で、あたしたちは、傍に行けないんだろう。
「……はやて」
「ん?」
「あたしは、ずっと、傍にいるよ」
「……ありがとな」
「うん」
「……ごめんな」
「ううん。いいんだ」
いいんだ。
はやての腰に顔を押し付けて、同じ言葉を繰り返した。
夢のような空気は余りにも優しくて、泣きたい、とヴィータは思った。
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はやてが過ごしてきた、一人の時間。
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『じゃんけん』
「御飯でも一緒にどうかな?」と誘われたので「よしきた!」と二つ返事で了承して、
お土産のデザート(チョコレートケーキをワンホール)を持って鼻歌交じりにお邪魔すると。
リビングの隅っこで、フェイトちゃんが落ち込んでいた。体育座りで。
「えぇと……何かあったん?」
ケーキの箱をなのはちゃんに渡しながら尋ねてみた。
まああんだけあからさまに落ち込んでんのやったら、想像はつきますけれども。
なのはちゃんは苦笑いしながら教えてくれた。
「ヴィヴィオとケンカしちゃったの」
……ですよね。やっぱり。
フェイトちゃんは暗くて湿っぽい空気を背負って、部屋の角っこで落ち込んでいる。
あれや、背中にでっかく「がーん」て書いてあんのが目に見えるようやわ。
「根が真面目なら、落ち込み方も真面目やな」
「まあ、アレはともかく」
同居人をアレ呼ばわりかい、お嬢さん。
まあ気持ち的にそう言いたいんですよね。分かります。
「ヴィヴィオも怒って不貞寝しちゃったみたいで……」
「へぇ」
「ごめんね。はやてちゃん」
なのはちゃんは困ったように笑いながら、リビングのテーブルをチラ見する。
サラダやらフライドポテトやらホットプレートやら、所謂パーティーの用意がしてあった。
四つ並べられたコップ見て嬉しくなったけど、まあその内の二つが絶賛ケンカ中なわけで。
なのはちゃんに理由を聞いてみると、笑っちゃうくらい大した事ないことが原因みたいや。
「お互い意地張っちゃって、引くに引けなくなったみたい」
「あー、なるほどなぁ」
ありそうな話やった。私はうんうん頷いて、取り合えず考えてみる。
折角来たんやから帰りたないし、できるなら楽しく過ごしたい。
しゃあないから、一肌脱ぎましょか。
「なのはちゃん」
名前を読んで、アイコンタクト。
何も言わんでも、なのはちゃんは私のやろうとしてることを理解してくれた。
さすが親友。心の友よ。一万と二千年前から愛してるかもしれない。
右手をグーにして、おんなじタイミングで軽く振り上げる。
「じゃーんけーん、ぽん」
目に火花を散しての真剣勝負!!
「じゃーんけーん、ぽん!」
一瞬で勝負が付きました。
私は出したパーをそのまま額に当てて仰け反った。
「んおっ、負けてしもうたー」
「ふふん。じゃあ私はヴィヴィオ。フェイトちゃんはよろしくね?」
「善処します」
「そう答えるヤツは大概やる気がないから信用するな、って私の上司が言ってた」
にっこり笑て、なのはちゃんはチョキの手をわきわき動かす。カニか。
「じゃあ、その信用を得られるくらいには善処する」
「やる気がないのは否定しないんだね」
「そんなん出るわけないやろー」
子供のケンカなんてケンカの内に入らんし、しかも片っぽは既にいい大人。経過は
どうであれ、これは大人の方が折れるべきだろう常考。
さっさと仲直りして欲しいから、間には立ちますけれども。
「その割には楽しそうだけど?」
なんて言いながら、なのはちゃんは御機嫌な足取りで寝室の方に向かう。そっと
扉を開けて中を窺うと、何故かにこにこ笑った。そのままするっと中に入ってしまう。
「……あほ」
どっちが、と恨めしげに呟いて、私はリビングの隅っこを見る。おんなじポーズを
キープして、フェイトちゃんは落ち込みっぱなし。近くまでそろそろ寄っても、挨拶は
おろか顔だって上げてくれへんかった。
あぁ、なんちゅうか……へこむどころかめり込んどるな。
「フェーイートーちゃんっ」
呼びながら、無防備な頭頂部にすこんと手刀を落とした。
「たっ。あれ、はやて?」
頭を揺らした私の手刀を両手で支えて、フェイトちゃんはぽかんと見上げてきた。
あ、この人マジで私が来た事気付いてなかったんか。へこむ。
なんてことはおくびも見せず、私はにこにこ笑て返してやる。励まし役がローテじゃ
仕方ないしな。
「こんばんは」
「こ、こんばんは……あれ? 何でいるの」
「うりゃ」
「あたっ」
頭をすぱんっと叩いてやった。ちょっと当たり所が悪かったんか、フェイトちゃん涙目。
「な、何で叩くの!?」
「えぇ加減仲直りしてもらわんと困る」
「ちょ、無視とか……そりゃ、仲直りしたいけど」
フェイトちゃんらしくない、ぼそぼそした呟き。甘やかしたい親心と、きちん教育せな
あかんっていう親心がケンカしてるんやろな。あれか、父と母か。
私はフェイトちゃんの前に屈んで、胡坐を掻く。局の制服やったからちょっと厳しい。
「せやったら、ちゃんと仲直りするって事も教えてあげな」
「教える?」
「せやで」
フェイトちゃんは両腕を組んでたから、それを解いたって両手を繋ぐ。羨ましいくらい
綺麗な手。指を絡めて遊びながら、
「ケンカなんて珍しいもんでもないけど、きちんと終わらせてあげな。心配やろ?」
「そっか……そうだよね。ヴィヴィオも心配だよね」
ちょっとだけ顔色が戻ってきて、フェイトちゃんはうっすら笑う。私は大きく頷きながら、
繋いだ手をぐいと引いて身を乗り出した。
「うわ、った!」
がつ、っと結構痛い音が鳴った。まるで頭突きをかますみたいに額を付き合わせる。
体勢を崩して、フェイトちゃんが痛そうに顔を顰めたけど、私も痛いからおあいこ。
おでこをくっつけたまま、睨む。
「ついでに言うと、折角の誕生日会をローテンションで過ごしたないっていう、主賓の
意思も汲んでくれると有難いんやけどな」
「汲む汲む汲みます!バスタブいっぱいになるぐらい!」
両手にぎゅっと込めた力でフェイトちゃんが悲鳴を上げる。それは意図を汲んだ上で
私にのんびりしてください、と言ってるって解釈します。
私は頭と両手を解放したげて、涙目のフェイトちゃんを笑いながら見た。
「ふぇいとママ……」
か細い声に、私とフェイトちゃんは振り返る。なのはちゃんに連れられて、ヴィヴィオが
丁度寝室から出てくるところやった。泣きそうな、困ったような、どうすればいいか
わからないって顔してる。
「フェイトちゃんもちっちゃい頃、あぁいう顔しとったなぁ」
「してないよ」
不貞腐れたように反論するフェイトちゃんの肩をぽんと叩いて、行って来いと促した。
二人はきちんと仲直りした。
その後、高町親子と私で、ちょっとばかり遅れた私の誕生日会が始まる。
まぁ、私としては楽しく過ごしたいだけやし。ハプニングはあったけど、いい日やった。
そうそう。
ヴィヴィオの落ち込み方が、フェイトちゃんと全くおんなじだったんやって。
爆笑やで、ほんま。
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誕生日要素を無理矢理ねじ込んだのがバレバレですね。
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『空にかえる 反転』
――目標発見!
位置確認。座標固定、ロックオン。
チャージ完了。ファイアリングロック、解除。
「すたあらいとぉー……」
ようい、
「ぶれいかぁーっ!」
どーんっ!
「はーやーてーさんっ!」
「うひゃぁっ!」
ヴィヴィオにいきなり背後から飛びつかれ、たまらずはやては悲鳴を上げた。
雪に足を取られ、可愛らしい砲撃に二人もろとも倒れ込んでしまう。
「ぶふぉっ!」
クッションがあったから痛くはなかったが、体が埋もれて冷たい。
だがしかし、歩くロストロギアの名は伊達ではない。ヴィヴィオが怪我をする事だけは
免れた。
(いや、ロストロギア関係ないし)
セルフ突っ込みを入れながら、身体を起こす。
ヴィヴィオの身体を張った『直射型』砲撃のおかげで、はやての人型がくっきりと
雪面に刻まれていた。
鼻で笑って見下ろす。
「殺人現場やな」
「さつじんげんばー」
不穏な言葉をこれっぽっちの理解もなく、ヴィヴィオは元気に復唱する。
はやては笑いながら、ヴィヴィオの服に付いた雪を払ってやった。
「えへへー」
顔に付いた雫を指で拭ってやれば、ヴィヴィオは嬉しそうに頬を染める。
「はやてさん、抱っこ」
ヴィヴィオが両手を「ん」と伸ばしてきたので、はやてはご所望通り抱っこしてやる。
と、口の端を吊り上げにやっと笑い、
「うぉりゃー!」
「きゃー」
ヴィヴィオを抱っこしたままぐるぐるとそのまま回転する。屈託無く笑って、ヴィヴィオが
首のところにぎゅっとしがみついてきた。雪の上を二人でわぁきゃあと騒ぎまくった。
「あかん、タイムや」
目が回りそうになったので減速して止まる。はやては頭がくらくらしたが、ヴィヴィオは
そうでもないらしい。腕の中で花が咲くみたいに笑っていた。
ヴィヴィオの金髪がきらきら煌く。雪の名残が太陽光を反射して綺麗に輝いていた。
金髪って得やな、なんてはやてがしみじみ思っていると、
「はやてさん、もう一回ぐるぐるしよ!」
「くそー、回るんはこっちやで」
「じゃあ今度はヴィヴィオがはやてさんのこと抱っこする」
「いやそら無理やろ」
苦笑しながらヴィヴィオを下ろそうとすると、彼女はいやいやと首を振り、余計に強く
しがみ付いてきた。はやてはいよいよ笑ってしまう。
「なんや、ヴィヴィオは甘えんぼさんやな」
はやては特に子供好きなわけではないが、何故かヴィヴィオは良く懐いてくれた。
かくいうはやてだって、ヴィヴィオのことは気に入っている。可愛いし、いい子だし。
恥も外聞も無く甘えてくる腕がいじらしいと思う。
(んー。子供っちゅうんは体温高いなぁ。ぽっかぽっかしとる)
その温もりをじっくり味わっていると、どこからか視線を感じた。
ヴィヴィオが甲高く叫ぶ。
「なのはママだ!」
満面に喜色を浮かべて、ヴィヴィオははやての後方を見ていた。その笑顔に早すぎる
春の陽気を感じつつ、ヴィヴィオを抱いたままはやては振り返る。
「ヴィヴィオー、はやてちゃーん」
隊舎の方からなのはが雪を掻き分けて来ていた。彼女が手を振れば、ヴィヴィオも
一生懸命手を振り返す。抱きかかえているはやてとしては、苦笑するほか無かった。
温かいヴィヴィオを手放すのは惜しかったけれど、ママが来てしまっては仕方がない。
ヴィヴィオを地面に降ろし、手を繋いでなのはに近付いた。
「何してたの?」
周囲の惨状を窺っておきながら、なのははヴィヴィオに問いかける。
「はやてさんと遊んでた!」
繋いだ手をぶんぶん揺らして、ヴィヴィオははやての顔を見て笑う。
「いや、ヴィヴィオはともかく……はやてちゃん、仕事は?」
「んふふ。野暮なこと聞いたらあかんで、なのはちゃん」
チェシャ猫のようにはやては笑う。とどのつまり、彼女は仕事を放り出しヴィヴィオと
遊んでいたわけだ。
なのはは溜息を付いて、自身の困った上司を見る。
「もー、ちゃんと仕事しようよ。グリフィス君たちが泣きそうだったよ?」
「しゃあないなぁ……」
それを言われてはかなわない、とはやてはヴィヴィオと繋いでいた手を離す。雪の中
素手で遊んでいたのに、二人の手はとてもぽかぽかしていた。
なのはがヴィヴィオのその手を掬い取って、緩く握る。
「そろそろお昼だから、一緒に食べようね」
「うん!」
ヴィヴィオは大きくうなずいた。春を通り越し、五月晴れみたいな笑顔を浮かべている。
はやてはちょっと悔しくなって、ヴィヴィオの金髪をそっと撫でた。
「じゃあ、後で雪合戦しよなー」
「はやてちゃんはお仕事です」
「……厳しいなぁ」
なのはと情けなく笑い合う。
はやてはのんびりと二人の背中を見送っていたが、一度ヴィヴィオがこちらを振り返り、
「またねー」と手を振ってくれた。
片手でひらひらと返して、はやては自分の立っている周囲を一瞥した。
あれだけまっさらで真っ白だった地面は、はやてとヴィヴィオが暴れまわったせいで
ぐちゃぐちゃになっていた。サイズの違う足跡も、はやての(殺人現場のような)人型も
くっきりはっきり残っている。
よくもまぁ、これ程荒らして回ったものだ。
はやては微笑んで、足元の雪を一掬い。熱くなった掌には冷たすぎる触感だが、別に
不快な程ではない。火照った頬には丁度いいかも。
雪玉を一つ握りながら、遊び場に背を向けた。
午後の仕事をいかにサボるかを画策しつつ、固めに握った雪玉を空に向かって投げた。
宙で翻る雪玉がきらり、と光を反射した。
--------------------
これの反転。ヴィヴィはやが好きだ。
--------------------
『スーパー部隊長タイム』
「やってしまったで! 高町二等空尉!」
けたたましくドアを開け放って、はやてちゃんは大声で私を呼んだ。階級で。
ここ、教室なんだけどなぁ……
お昼ごはんの準備をしていた私たちは、一瞬はやてちゃんの方を向いたけど、
また何事も無かったかのように席に着いた。
今日のお弁当は何かなー?
「聞けや! 世紀の大発明をしたんですよ高町教導官!!」
くそっ、満足にシカトもさせてくれないのかこの関西人は!
役職で呼ばれたら答えざるをえないじゃないっ。
私ははやてちゃんを席に促しながら、呆れて言った。
「何をやったんですか八神っち」
「八神っち言うな」
はやてちゃんは鼻息荒く私のそばまで来ると、びしっと腕を突きつけてきた。
その手には、香水ビンのような小さいボトルが握られている。
「すっごく嫌な予感がするんだけど一応聞くわ、何これ?」
すっごく胡散臭い目をして、アリサちゃんがボトルを手に取る。
「お義理だろうと良くぞ聞いてくれました!」
義理だって分かっていても突っ走るはやてちゃんはやけに輝いてるなぁ。
こういう時の彼女はトラブルしか持ってこないのを、私は経験で知っていた。
「これは惚れ薬や!」
はぁ。惚れ薬、ですか。
このカキ氷のシロップみたいな青い色してる不思議な液体が。
「何やの、その顔」
「やっぱりって顔。ていうか、どうしたのこのブルーハワイ」
「ブルーハワイちゃうわ。ほ・れ・ぐ・す・り。理科の実験で遊んで作ったんよ!」
「ノーベル賞もびっくりな発明を遊び心で作るな!」
アリサちゃんが突っ込んだ。
ていうか授業中に遊ぶって所から間違っているよね……。
それはそうと、その自称惚れ薬を持ってきて、一体私たちにどうしろと言うのだろう。
はやてちゃんは笑いながらボトルを軽く振った。
「使ってみたいと思いまへんか? 効果は折り紙つきでっせ」
そんなの要りません。紙飛行機折って遠くに投げ飛ばします!
「っていうか、効果なんて何でわかるの? 検証したの?」
ちょっとおどおどした感じでフェイトちゃんが尋ねる。私はうんうんと頷いた。
効果も実証しないで惚れ薬とは笑わせるよね。
ところが。
「したで? ちゃんと。六組の生徒使て」
こいつ、クラスメートで実験しやがった!
何を当たり前な事を、とはやてちゃんが笑う。そこは笑っちゃダメでしょう!
二組の三人の視線が、すずかちゃんに集中する。彼女は苦笑しながら、
「その、私たちのクラスって、はやてちゃんを筆頭にノリのいい人が多いから……」
結構みんな、ノリノリで。
って何やってんだ六組!
「実験中なのに、空気が桃色っていうか……腐女子的展開もあったっていうか……」
私、はやてちゃんと同じクラスじゃなくて本当に良かった……!!
あれ? ということは。
「じゃあ、すずかちゃんも使ったの? 惚れ薬」
私の質問に、すずかちゃんは首をぶんぶんと振り、真っ赤になって俯いていた。
あう、その反応は、何ていうか、とても困るよすずかちゃん。
「何だ、じゃあもしかして誰かに惚れられたのかしら?」
アリサちゃんがニヤニヤしてすずかちゃんを覗き込む。すると、すずかちゃんはもっと
赤くなって俯いてしまった。
ほほぅ。すずかちゃん、図星ですか。一体誰に惚れられたんですか?
すると、すずかちゃんは何も言わず、よろよろとした手つきで隣を指差した。
そこにいるのははやてちゃんだった。
「「「ってお前かよ!」」」
二組三人のチームワークは突っ込みでも健在です。
はやてちゃんはあっけらかんと笑っていた。
「あははー。ちょっと本気で口説いてもーた」
「本気でって……はやてちゃん、自分も飲んだんだね」
「そりゃそうよ。先ず自分が実験台になって実験せんと、人様に迷惑かけてまうやろ」
いや、はやてちゃんの発明自体が既に大迷惑だよ。とは思ったけど口にしなかった。
はやてちゃんはボトルを取り返して、自慢げに胸を張る。
「量にもよるけど、このキャップ一杯で効果は二十分。一本五回分で、五千円やね」
「高っ! お金取るの!?」
「何言うてんの。世の中甘く見たらあかんでなのはちゃん」
世の中をノリで生きているような人に言われても説得力ないんだけど。
「私はみんなにひとときの夢をプレゼントしよーと思ってん」
「そりゃ、効果が本当なら、凄いと思うけど……」
「どっちかっちゅうと破格やで? 二十分あれば既成事実作れるんやし」
えげつない事をさらっと言うなこのタヌキ。
確かに、コストパフォーマンスを考えれば、とても安いかもしれないけれど。
唸りながら考え込む私の机の上に、はやてちゃんはだんっとボトルを叩き付けた。
「この度は限定三十本の生産で、ご注文はお一人様二本までとさせて頂きます!」
高らかに、歌い上げるように、テレビ通販の人みたいに、はやてちゃんは両手を広げる。
「さぁ、ご注文をどうぞっ」
うわぁ、良い笑顔ー。
白い歯のまぶしいはやてちゃんが何だか異様にむかついたので、指で拳銃の形を
作ってはやてちゃんに向けた。
「ディバイーン」
「や、ちょっ、それ反則! わかってても怖いねんて!」
「……」
「ああああフェイトちゃんの視線が痛い!」
「店頭販売には実演が付き物よね、はやて!」
「うわ、待って、アリサちゃんそれはあかんっ、あかんって!!」
すずかちゃんに羽交い絞めされて、はやてちゃんはばたばた足掻いてた。
私とフェイトちゃんは、それを見ながら、ようやくお弁当を食べ始めた。
惚れ薬ははやてちゃんに責任以って全部引き取ってもらいました。胃袋で。
その後はどうなったかっていうと……まぁ、何ていうか。
すずかちゃんが赤面するのも、よくわかった。
取りあえず言えるのは。
二十分あれば既成事実が作れる、ということでした。
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(正直すまんかった。)
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『予告編』
それは、寒い冬の、ある日のこと。
寒くて、痛くて、辛くて。
孤独だったあの頃を、思い出すような、冷たい朝のこと。
誰かを守りたくて。
みんなを守りたくて。
それが自分の役目だと、自分の生きる道だと信じていた。
何かを犠牲にしなければいけない道は、正義などではない。
自分たちはまだ、信じていた。
「本日を以って、機動六課を解散します」
誰もが耳を疑う、突然の宣言。
隊員たちのざわめきの中、ただ一人、部隊長である八神はやてだけが、笑っていた。
まことしやかに囁かれる、噂。
――八神部隊長は、機動六課を売ったんだよ。
本当に?
「はやてちゃん!」
「はやて!」
扉の向こうにあったのは、無人の部隊長室。
何一つ残さないまま、八神はやては六課から姿を消した。
六課設立に関わった後見人の三人は、何も言わない。
三人が一様に口を閉ざし、元部隊長に関しては首を振るだけ。
「それって、もしかして……」
フェイトは事が荒立つ事を懸念して、秘密裏にはやての行方を捜査する。
同様に捜索を続けていたなのはの元に、突如現れる謎の男。
「高町教導官ですね? 初めまして」
「……初めまして」
細い目をしたひょろ長い、技術者風の男。
「こういう者です。以後お見知りおきを」
細い目を更に細くして、彼は喉の奥で笑う。
六課の解散にあたり、消えたのは八神はやて自身と――その捜査記録。
「捜査記録が、無い……?」
「おかしいよ。何ではやてちゃんのだけ?」
「やっぱり何か事件に巻き込まれたんだ」
連絡の途絶えた特別捜査官と、消えた捜査記録。
そして――外部からの圧力。
「武装隊にも、最近、怪しいカンジの人たちが出入りしてる」
「武装隊……何で?」
「わからない。でも、これって関係あるんじゃないかな」
「はやては、きっと何らかの手がかりを残してくれてる」
もし彼女が何らかの事件に巻き込まれているのだとしたら、一体どうやってそれを知らせる?
「私たちだけにしか使えない、通信手段……?」
「これが、直前まで追ってた事件だよ」
「……ゲリラ事件?」
「単なるゲリラじゃ、ないらしい」
航空武装隊に現れた、謎の人物。
八神捜査官が独自に追っていた一つの事件。
何も語らないクロノやカリム。
六課が解散せざるを得なかった、その理由。
一つ一つ、まるで彼女の足跡を丁寧に追うように、パズルのピースを集めていく。
パズルが象る完成図は、まるで、
「ねぇ、フェイトちゃん」
「何?」
「ひょっとして、私たち、ヤバくない?」
「違うよ、なのは」
「じゃあ何」
「かなりヤバい」
事件の真相に近付いた二人に立ちはだかる、何者かの陰謀。
そして。
「――行こか。こっからは、キツネとタヌキの化かしあいや」
尻尾出したら、おしまいやで。
魔法少女リリカルなのはStrikers
終焉に向かい収束する、いくつもの思惑。
大きなうねりに絡まった三人の戦いが、始まります――。
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(調子に乗りました。)
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○虎子+冬馬(ヒャッコ)
麗らかな午後。曇りのない空。そんな日は屋上で昼ごはん。
なんだけど。
「ってわけよ。ねーねートーマ聞いてる?」
「あの、スズメさん、食べかすが……」
「ホントだ」
「虎子さん!? 歩巳のお弁当を勝手に取らない!」
「え、えぇっ!?」
「デリシャス!! おい、雀、食べかすが……」
「ホントだ」
「……頼むから静かにしてくれ……」
アタシを両側から挟むようにしてベンチに座るヤツ等は、アタシの言葉なんか全く
気にせず話している。
本当に五月蝿い。昼食くらい静かに食べたい。教室が騒がしかったから屋上まで
逃げてきたのに、これじゃ意味がなかった。
……歩巳がくれるおかずは、美味しいけど。
「トーマってば、聞いてる?」
とりあえず、アタシの左隣に座ったコイツがやたらちょっかいをかけてくるからウザい。
落ち着いて食べられないんだ。
「聞こえない」
ぴしゃりと打ち切って、アタシは紙パックのジュースを飲む。ずごごーっと音を立てて
へこんでいく紙パック。
あ、無くなった。
「ひどいよトーマ! アタシがこんな一生懸命話してんのに!」
「じゃあ死ね」
あーあ、まだパンがちょっと残ってんだけどな。ペース配分間違えた。
上下山が悲痛な声をあげているけど、気にせずパンを食べる。
もそもそと租借して、飲み込む。なんだかやっぱり喉が渇いてしまう。
あーあ、もう一本買ってくりゃよかった。
「トーマ。トーマってば」
シカトしようかとも思ったけど、コイツが制服の裾をぐいぐい引っ張ってくるからそれも
できなくて。
「五月蝿いな、何だよ」
ばっと振り返った目の前に、ストローが差し出された。
「はい」
あまりの近さに、アタシは促されるまま思わずそのストローをくわえてしまう。
……おい!? 上下山!? なんだこれは!?
眼で訴えても、コイツはニコニコしてパックを押すだけ。中に圧力が加わって、アタシの
口の中に烏龍茶が勝手に入ってきた。
「パンじゃ喉渇くっしょ? アタシのあげるよ」
「……」
烏龍茶を飲み込む。ストローがアタシの口から離れていった。
や、待て、ふざけんな。お前これじゃあ――。
素直に礼を言うどころじゃないアタシをよそに、上下山は平然とストローに口を
つけていた。
はぁぁ?
腹が立ったので、ヤツが持っている紙パックをぐっと握ってやった。
口に勢いよく烏龍茶を注ぎ込まれて、耐え切れなかった上下山は思い切り噴出した。
「ぶぼぁっ!! ちょ、トーマ、何すんの!」
「ちょっと、虎子さん、汚い!」
「アタシじゃないよ! トーマが!」
上下山を中心に、また騒がしくなる。話の矛先が上下山に向いたおかげで、アタシは
赤い顔を見られずに済んだ。
はぁ……アタシの静かな昼休みを返してくれ……。
空の紙パックのストローをくわえて、アタシは溜息を吐いた。
口寂しいわけじゃ、ないぞ。
○乃梨子+志摩子(マリみて)
薔薇の館には、珍しく私と志摩子さんの二人だけだった。
何のかんの理由をつけてみんな帰ってしまって、残ったのは私たちとテーブルの
上のお菓子。
個別包装じゃないから食べきってしまいましょうか、と志摩子さんが言うので、
私たちは他愛も無い話をしながらのんびりお菓子を食べた。
そういえば、こうしてゆっくり話をするのも久し振りかも……。
私の話に柔らかく微笑みながら相槌を打ってくれる志摩子さんは、やっぱり綺麗。
いつになく饒舌になって話してると、志摩子さんが控えめに声をあげた。
「あら」
「どうしたの?」
「いえ。このビスケットなのだけれど、味が二つあったのね?」
最後の一つを手にとって、志摩子さんが首を捻る。
あぁそんな志摩子さんもやっぱり以下略。
「あれ、ホントだ」
言われてみて気付く。話に夢中で、お菓子の味なんて気にしてなかった。
「志摩子さん食べなよ」
「私はいいわ。乃梨子が食べて」
そう言って、志摩子さんは私の手にビスケットを乗せる。志摩子さんの手は白くて(ry
じゃなくて、私は考える。
ここで私が遠慮したって、どうせ上手く志摩子さんに丸めこまれちゃうんだよね。
だから半分ずつにすれば解決。
「じゃ、半分ずつね」
私はにかっと笑って、ビスケットを食む。くっと手首を返して、そのまま半分の辺りで
割った。
「ふぁい」
私はその半分を志摩子さんに差し出した。
ビスケットの半分を口で挟んだままだったから、少し間抜けだったけど。
ところが、志摩子さんは受け取らない。あれ?
目を丸くしたまま私を見てたかと思うと、少し顔を赤らめて俯いて。
そうしてやっと受け取ってくれた。
そして私のほうをちらちら見ながら、ゆっくりとビスケットを食べ始める。
いやいやいや、なんですかその可愛いさ。
ていうか、あれ? 私、なんかしたかな?
ビスケットを食べながら首を捻る。
私が志摩子さんの行動の意味に気づいたのは、コーヒー味のビスケットを飲み込んで
すぐのことだった。
あう。何てことだ。全然苦くなかった。
○フェイト+はやて(なのは)
暗闇の中、はやての華奢な肢体が踊るように跳ねる。
私はそれを押さえ込むようにして、キスをした。
「んっ……はぁ、あ、フェイ、トちゃ」
息継ぎの間に聞こえる、途切れ途切れの自分の名前。
それが嬉しくて、私ははやての体をそっとなぞった。
私の手が内腿を滑ると、はやての眼が不安そうに揺れるのがわかる。鼻先に
ちょんとキスをすると、その光が和らいで解けていった。
「フェイト、ちゃん」
「うん」
控えめな呼び声に、私は頷く。わかっている、言いたいことは。
右手ではやての頬を撫ぜた。人差し指で、はやての艶やかな口唇を割る。僅かに
口を開いて、はやては私の指を受け入れてくれた。
「ん、はぁ、あむ……」
はやての舌が、私の指を丹念に舐めていく。包み込む柔らかさに、背筋が粟立った。
陶然とした表情に耐え切れず、私は指を引き抜いた。
「あ……」
そのまま、はやてが舐めていた指をぺろりと舐める。唾液でぬらぬらと光る私の指は、
はやての味がした。だから、そのまま伝える。
「はやての味がする」
「うぅ……フェイトちゃんのあほ」
はにかむはやてが可愛くて、私の口元が自然と緩んだ。頬にキスをして、右手を
彼女の中心にあてがう。
はやて自身が十分に濡らしてくれた人差し指を、その秘部にゆっくり差し込んだ。
「ああっ……んっ」
はやての中はとてもすべりが良くて、何度も何度も抜き差しした。その度にはやての
腰が踊る。奥深く迎えてくれるようで嬉しい。
高潮した頬で、はやては私の下で声をあげる。
「んっ、あっ、ふぇ、フェイトちゃんっ」
「ん?」
耳を舐めると、はやてが溶ける様に喘いだぐ。
「も、いっ、ぽ……んんっ」
「え、何?」
背中に回ったはやての腕が訴えるように背中を叩いてきたので、顔を上げる。
右手の動きは止めず、私ははやての瞳を覗き込んだ。
目尻に涙を溜めて、
「もう、一本……」
とろんとした青い眼が私を見つめていた。
ぞくぞくした。
背骨を駆け上ってきた衝動に脳髄を焼かれて、溶けてしまいそうだ。
キスで涙を拭ってあげて、私は一度人差し指を引き抜いた。
「んぅ……」
名残惜しそうな声がはやてから漏れる。その息を逃がさないように、私ははやての
唇ごと塞いだ。
「ん、んんっ……あ、ぁ」
強引に舌を絡めると、私は二本の指をはやての中に突きこんだ。
口の中で、はやてが大きく息を吸っていた。
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(テーマ『間接キス』で三本。)
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『仕方なさ気でも面倒見はいい』 幕之内潮×蕾屋祈(ヒャッコ)
「あ、あの、幕乃内、さん」
ぞんざいに髪の毛をかき回して、かったるそうに歩く、その後姿に。
祈は勇気を物凄く振り絞って、声をかけた。
それはもう、濡れた布巾の水気を全て絞ろうかと言うくらい、必死に。
ありったけの勇気に後押しされて喉から漏れたのは、小さな声。
自分が嫌になりそうだ。
早くも自己嫌悪に陥りそうになっていたら、
「あ? 何?」
目の前を行く彼女は――潮は振り返った。
とても小さな祈りの声を、きちんと拾って。
口調はつっけんどんだし、目つきも怖いし、思わず震え上がりそうになる。
だけど、彼女はきちんとこっちを向いてくれた。
「何か用?」
「え、あ、そ、その……」
折角彼女が話を聞いてくれるのに、祈はどもってしまった。
上手に言葉が出てこない。焦ると更に出てこない。
前髪の隙間から、潮が顔を顰めているのが見えた。
「ひぃっ」
その剣幕にすくみ上がる。
「ウゼェ。どもんな、ちゃんと喋れ」
祈の頭を片手でがっと抑えると、潮は粗野な口ぶりでそう言う。
祈は慌てて頷いた。頭を掴まれたまま。
「そ、その、こないだの自習の時」
「……って、あの、英語ん時か?」
「は、はい」
あの、担当教員の急用で英語が自習になった時。
どうせ次の時間は体育だから、体育館でみんなでドッジボールをした日のことだ。
「その、私にボールが飛んできて、それを幕之内さんがとってくれたので……」
「あ? そだっけ?」
「そうなんです。だから、お礼を言おうと」
「はぁぁ?」
潮の語尾が剣呑に上がる。祈は思わず身体を硬くしてしまった。
と、野暮ったいと自分の長い黒髪を、潮の手が乱暴に撫ぜる。
「オマエ馬鹿か?」
「だだだ、だって……!」
祈は内気だし、見た目も中身も陰気だし、お洒落なんてしたこともない。
友達イナイ暦十五年のキャリアを持つ祈は、正直言って絡みづらいだろう。
だからああいった体育の時間でも、避けられることも多かったのに。
潮は、祈に向けられたボールを、代わりに取ってくれたのだ。
「だからどもんな。たかだかドッジボールだろ」
そう。たかだかドッジボール。
それでも、祈にとっては重要なことだったのだ。
潮の手が、再度髪を掻き回す。
「あううう」
「はっ。変なヤツ」
そう言って。
いつもしかめっ面ばかりしているあの潮が、本当に僅かだけど、微笑んだ。
その後、祈を振り返らずに廊下の向こうへと、やる気無さそうに去っていく。
(……わ、笑った? 幕之内さんが……?)
それだけで、声をかけた甲斐があると思う。
彼女が触った自分の髪を、ゆっくり撫でる。
人知れず笑みを漏らして、祈はそっと胸に誓った。
今度は「ケータイの番号を、教えてくれませんか?」と聞いてみよう。
自分の声をきちんと聞いてくれた潮なら、或いは。
友達になって、くれるといいな。
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(潮はいいヤツですよね?)
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『君が休みでホッとした』 れなえり(娘。)
雨の中、学校から急いでバイト先のコンビニに向かう。
コンビニに着くと裏口から滑り込んで、事務所のシフト表を見に行った。
(今日のバイトは、れいなと誰だっけ?)
人のシフトなんて把握している方が稀だ。
今日の日付を指でつうっとなぞって、表の一番下までたどる。
そうして、れいなはほっと溜息をついた。
あの子は、今日休みだった。
そう考えたら穏やかな気持ちでバイトをこなせそうだ。
更衣室に入り、制服についた雨粒を払う。
さっさと着替えて、ポケットに小さなチョコレートを忍ばせた。後で暇なときに食べるのだ。
そそくさと事務所を出てタイムカードを切る。
そうしながらも考えるのは、バイト仲間のあの子の事。
(そっか、絵里は今日はいないんや。寂しい――わけないわけない)
かぶりを振り、れいなはレジ裏から店内に出た。
先ずは在庫補充をしよう、と倉庫に回ろうとすると。
「あ、れーなぁ。やっほ」
「う、わぁ……な、何でいるとよ」
今日休みだったはずの絵里が、お菓子の陳列棚の前で手を振ってきた。
「だって、雨降ってるし。雨宿りついでにお菓子買おうかなって」
ふやけた笑顔を見せながら、彼女はチョコレートの吟味をしている。
その姿をそっと窺う。れいなには見慣れぬ制服姿。
慌てて目をそらした。
「そう」
「あ、これ欲しいな、ちょうだい?」
「あげるか!」
苦し紛れに叫んで、れいなはずんずんと倉庫に向かって進む。
後ろから「えー、意地悪ー」なんて声が聞こえたけれど、到底返事はできない。
倉庫の扉を乱暴に開けて、在庫棚に身を隠した。
ひどい。何だこれは。不意打ちだ不意打ちだ。いるとは思わなかった。
「うー……あー……」
冷たい棚に額を押し付けて呻く。折角穏やかに仕事が出来ると思ったのに。
意識しちゃって、仕事にならない。ちくしょう。
内心毒づき、ポケットに手を突っ込む。そのまま倉庫から出た。
絵里はまだお菓子を選んでいるようだった。
彼女に向かって、ポケットに入れていた腕を突き出した。
疑問符を浮かべる絵里を直視しないように、目を逸らしながら。
「……ゆっくり、してきぃよ」
小さなチョコレートを手渡して、れいなはまた風のように倉庫に戻った。
絵里が笑うのを扉の向こうに感じる。
「仕事……せんと」
真っ赤な顔を手で隠しながら、しばらく倉庫の中を行ったり来たりしていた。
あぁ、もう。
彼女がいると、仕事にならない自分が情けなかった。
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(思春期って美味しい。)
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○槙先輩+ゆかり(はブ)
さかさか、と鉛筆が紙の上を滑る音が響く。
自分は夢中になってたくさん引いていたけれど、どうやら彼女は耐えられなかったらしい。
先輩、と小さく呼びかけられた。
「なぁに?」
画用紙から一度目を離し、少し離れた場所で椅子に腰掛ける後輩を見た。
「あの、落ちそうで怖いから、やめてください」
「え?」
そう言われて、上条槙は首を傾げた。
ここは天地学園の美術室。今は放課後で、目の前にいるのは自分の刃友――染谷ゆかり。
ゆかり、ちょっと、モデルになって。
と言ったのがつい先程のことのように思えるが、気付いたらずいぶんと日が落ちていた。
そして槙は、美術室の窓枠に直接腰掛けて、鉛筆とスケッチブックを抱えている。
「何のこと?」
「いや、ですから! 窓に座るのは怖いからやめてください!」
「あ、あぁー、これのことね」
笑いながら座りなおして姿勢を正す。ゆかりの顔が引きつっていた。
だけど、まだ降りる気はなかった。申し訳ないけれど、もうちょっと我慢して欲しい。
「こうして描くのが、好きなの」
「それは分かりますが……まだ右手も完治してないのに」
「大丈夫よ」
だからこうして、リハビリ代わりに彼女をモデルにデッサンしている。
もうちょっと、と言うと、ゆかりは呆れたように溜息をついた。
また、鉛筆を握る。もう少しだ。
鋭角的な輪郭、意志の強い瞳、ストイックな顔つき。
それでいて優しい影を落とす口元と、柔らかい前髪。
スケッチブックとゆかり本人を交互に見て、槙はようやく窓から離れた。
「悪くないわ。ごめんなさい、ゆかり。付き合わせてしまって」
「いいえ、これくらい」
ゆかりはかぶりを振り椅子から立ち上がる。
気遣わしげな視線が右手のあたりをさ迷っている。
だから槙は、右手を使って画用紙をスケッチブックから引き千切った。
「どう?」
「え、えぇ!?」
「自分で言うのもなんだけど、良く描けてると思うの」
ゆかりが画用紙をまじまじと見つめ、頬を紅潮させている。
「こ、こんなに良い顔してません……」
「そんなことないわよ。十分、素敵よ」
臆面もなく言い放つ。ゆかりは真っ赤になって口を閉ざした。
「朱・氷室組との試合を超えて、貴方はそういう顔つきになった」
「そうですか?」
「えぇ。私も、ようやく色々と吹っ切れたし」
右手の状態も良好。絵を描く分には全く支障は無い。
あとは星獲りに参加できるまで回復すること。待ち遠しい。
「楽しみね」
「――はい」
「さ、帰りましょう、冷えない内に」
窓を閉めて促すと、ゆかりは慌てたように、
「あ、あの、それ、頂いてもいいですか?」
槙の持っているスケッチブックの切れ端を指して問いかけた。
もちろん断る道理はない。そっと画用紙を差し出した。
「もらってくれる?」
「はい。大事にします」
ゆかりは大仰に頷くと、恭しくそれを受け取る。
顔が赤いのはどういう理由だろう。
そう考えるのが楽しくて、槙は静かに微笑んだ。
本当に、楽しみ。
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(タイトル付け忘れてた。)
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調子乗った『予告編』が『長編』に化けることを期待しますwww
買ってくだちゃい☆ってチ※ポの写メ送ったらソッコー食いついた件www
30年ずっと童☆貞のオレがこんな簡単に初体験できるとわ!!!!(*゚∀゚)=3
まぁ報酬に10万もらったのが一番ビビったんだけどなwwww
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